鹿写真家 石井陽子さんのコラム

しかしか歳時記  2.

春から初夏へと季節は廻り、花暦も桜から藤へと移るころ、鹿たちも衣替えをします。
雄たちは焦げ茶色、雌たちは茶褐色の冬毛から、お揃いの明るい茶色に白い斑点の夏毛へと生え変わるのですが、4月から5月はちょうどこの端境期。個体によっても違いますが、かなり毛がバサバサになる子たちもいて、「病気なのでは」と心配になることもあるほどです。

桜をバックにした鹿たちは絵になりそうなのですが、肝心の主役たちの毛並みが今一つなのが惜しまれるところ。でも、花びらが鼻先についているのもお構いなしに一心に食べている鹿の姿は愛らしく感じます。

       撮影=石井陽子

この頃から、雄鹿たちには新しい角が生えてきます。奈良公園の雄鹿たちは秋に角切りをされるのですが、後に残った菊座と呼ばれる白い根元の部分が落ちて、焦げ茶色の袋角が伸びてきます。袋角には産毛が生えていて、血が通っているので温かいのですが、触ると嫌がるのでそっとしておきましょう。

       撮影=石井陽子

ちなみに、この凛々しい彼は、奈良の鹿ウォッチャーの方々の間では有名だという「ブラックジャック」さん、らしいです。

そして、これからの楽しみは鹿の赤ちゃんの誕生。昨年は奈良の鹿愛護会の保護施設「鹿苑(ろくえん)」で4月30日に赤ちゃん鹿第1号が生まれ、同施設での記録では最も早い誕生だったそう。昨年はコロナ禍で鹿苑での子鹿公開が中止されましたが、今年は開催されるといいですね(6月1日から30日まで実施予定)。

 

 

石井陽子

2011年3月、久しぶりに訪れた奈良で、早朝の交差点に堂々と立つ鹿の姿に
インスピレーションを受けて、人間の決めた境界線を軽やかに越えて街を
闊歩している鹿たちを捉えたシリーズを開始。現在は、北海道から沖縄まで
全国に撮影エリアを広げ、神の遣いから害獣まで棲む場所によって変わる鹿
と人間のアンビバレントな関係を描いている。2015年リトルモアより写真集
『しかしか』刊行。2016年に銀座ニコンサロン、大阪ニコンサロンで写真展
「境界線を越えて」を開催。フランス、ドイツ、ニュージーランド、マレーシア
など海外でも多くの展示を行なってきた。山口県生まれ。神奈川県在住。

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